還暦おやじの趣味三昧

歴史とお酒、旅と趣味にまつわる話をしていきます

ミュージカル「この世界の片隅で」を見てきました

この作品が9年前に映画化された際、当時聴いていたラジオ番組で、戦争を扱いながらも反戦にも軍国主義にも流れずに、戦時下での庶民のありのままの日常・生活が描かれている、というようなコメントがなされていたのに興味を覚えて観に行きました。
確かに作品では、戦争に関するシーンが複数出てきますが、それ以上に個々の登場人物の気持ち・(当時の)社会常識・その常識への憤り・滑稽さを十分感じさせてくれたのを記憶しています。
この作品がミュージカルになりました。出演スタッフも昆夏美さんや大原櫻子さんなど実力のある有名な方々です。場所も日生劇場。観てきました。
良かったです。最初は時間が進んだり戻ったりするストーリーを、映画を一度見ているからついていけるけど、この話が全く初めてだと大丈夫かな、とひそかに思ったりしていましたが、物語が進むにつれてどんどん話の中に引き込まれて行って、そもそも他のことを頭に浮かべる余裕は無くなっていました。すっぽり物語の世界に同化してしまったようでした。
戦争の扱いに関しては、すずさんが右手を無くし、一緒にいた晴美ちゃんを死なせてしまうような悲しい場面や、故郷の広島に原爆が落とされた後母親が行方不明になり、父親が亡くなり、妹も病んでしまう場面があったりして、その悲惨さは表現されています。でも、それは反戦に直接結びつくのではなく、その後も含めた日常の当たり前の生活との対比で、やんわり、じわっとと、見るものに問いかけているように感じました。
レ・ミゼラブルのエポニーヌ役でしたし、昆さんの実力は十分わかっていたつもりですが、これぞすずさんだという姿を見せてくれました。心とおなかに響く力強さや優しさを自在に表現する歌声でありながら、会話はおっとりとしたすずさんそのもの。戦争下でありながらもやさしい世界を感じさせる、物語の世界へ自然にいざなってくれました。音月桂さんも良かった。晴美さんを亡くした直後はすずさんに強く当たりますが、一緒にいた娘を結果として死なせたわけですから仕方がないとも言えます。ただ、その後ですずさんに寄り添った言葉をかけます。さすが元宝塚トップスターだけあって歌も素晴らしかった。
久しぶりのミュージカル観劇だったのですが、やっぱり生の迫力はすばらしいと感じました。